絶望を希望に変えた少年と犬の出会い

ヨーロッパ、特にイギリスでは広く知られている「アナトリアン シェパード ドック」という大型犬は、飼主に忠実で見知らぬものへの警戒心は非常に強いことで知られています。

その生後半年ほどのアナトリアンシェパードが、電車にひかれ重傷を負っている…と鉄道会社から連絡をうけて動物病院に運ばれてきました。瀕死の重傷を負っていましたが、努力の甲斐があって一命は取り留めることができました。ですが、損傷が激しかった左の後ろ足は残念ながら切断するしかありませんでした。
獣医師たちはそもそも不思議な気持ちだったようです。アナトリアンシェパードは警戒心が強く慎重な性格のはずなのに、わざわざ電車に近づくだろうか…治療の過程や後に判明したようですが、どうやら飼主に虐待をうけており、わざわざ線路にくくりつけられていなければ、この犬がこんなことにはならないだろう、ということでした。

大型犬が足を失うと、成犬になった時に体重を支えられず、寝たきりになってしまう可能性が高いのだそうです。となると、この犬を引き取りたいといってくれる人が現れる可能性はかなり低くなってしまいます。引き取り手がなければ殺処分となってしまいます。そこで保護団体は何とかこの犬を救おうと「ハチ」という名前をつけ様々な方法で飼主の募集を始めました。

募集をかけて半年…あるドックトレーナーの男性が飼主募集の記事を見かけました。
既にこの男性の家は犬を飼っていて、そして小学生の男の子、オーウェン君がいました。

オーウェン君は、全身の筋肉が常に硬直してしまう「シュヴァルツ・ヤンペル症候群」という先天性の難病でした。世界でも100例ほどしか報告されておらず、治療法も解明されていない病気です。

小学校にあがったオーウェン君は、自分自身と周囲の違いに悩んでいました。特にクラスの友達に「オーウェンはどうしていつも変な顔をしているの?」とからかわれることは何より嫌だったそうです。病気により顔の筋肉も硬直していて、目をあけるためには口を尖らせたり…と健常者から見ればおかしいかもしれませんが、オーウェン君はそれでも学校でがんばっていたのです。

人と違う自分を見られたくない…と他人の視線をさけるようにオーウェン君は外出することを嫌がるようになり、学校も休むようになり、どうせ病気はよくならないから…と薬を飲まなくなってしまいました。

男性は息子やすでに自宅にいる犬について考えながらも、「ハチ」に強く引きつけられていました。妻と相談し一度ハチに会いに行くことにしました。ハチは虐待がもとで人間不信に陥っており、本当に飼うことができるかどうか…とりあえず2週間預かって試してみることにしました。

ハチを自宅に迎えた日、ハチは警戒して家の中に入ろうとしなかったので、まずリードを離して家の中を自由に探索できるようにしたところ…ハチは全く知らない家なのに一目散にオーウェン君の部屋へ走っていきました。慌てて両親がオーウェン君の部屋へ行くと、オーウェン君の膝に頭をのせて甘えてくつろいでいるハチの姿がありました。

ハチはその日から片時もオーウェン君のそばを離れず寄り添っています。そして、そのハチの存在がオーウェン君の心に変化をもたらすことになります。ハチは足のために薬の混じった食事をとっています。飼主に虐待され、片足も失くし、それでも前向きに生きようとしているハチの姿を見てオーウェン君は再び薬を飲み始めました。

オーウェン君は失いかけていた優しい笑顔をハチと共に取り戻しつつありました。そんなある日、彼はオーウェン君に語りかけました。
「ハチは虐待をうけ、足を失うほどの怪我をして人間不信に陥るのは当然だ。そんなハチが自らオーウェン君と友達になろうとしてくれたのは、どれだけの勇気がいることだっただろう。」
ハチは勇気を出して自分を信じてくれている。自分はどうだろう…他人の視線を避け、勇気を持てず、後一歩を踏み出すことができない。

「ハチを連れて散歩にいきたい」
オーウェン君は自分の意思で外に出ることを決意しました。
オーウェン君ではなく、ハチに引きつけられてたくさんの人が集まりました。三本足のハチに子供たちが「かわいそう」と言うと、オーウェン君は自信をもってきっぱりとハチがどんなにすごい犬か話し出しました。

ある子供のお母さんがオーウェン君に言いました。
「そんな犬をしっかりと散歩させているあなたもすごいわよ。偉いわね。」

他人と関わりたくない、目も合わせられない…そんなオーウェン君は、ハチと共に人と関わる喜びを知ることができました。
それからオーウェン君は、ハチと様々なところへ一緒に行き、いろいろな人に大好きなハチの話しをすることが楽しみになりました。

そして、たくさんの人が集まるドックショーに出場するようになり、世界最大のドックショーである「クラフト」の犬と人間の友情に与えられる賞を見事受賞しました。

その後、オーウェン君は毎日学校へ通うようになり、ハチとの友情も変わらず続いています。

「ハチと一緒に世界中のいろんな所へ行ってみたい」
生きることに絶望感しかなかった少年が、生きることを諦めさせられそうになっていた犬と共に、未来を夢見ることができるようになったのです。過去のオーウェン君の姿はもうどこにもありません。

参考資料
http://www.fujitv.co.jp/unb/contents/140501_2.html
www.koinuno-heya.com